ケータイ彼女(シナリオ28)

□人  物

 小枝 花見(こえだはなみ)(16)里中高校2年生
 小枝 岬(こえだみさき)(18)里中高校3年生。花実の姉
 三浦 武(みうらたけし)(18)里中高校3年生。岬の彼氏
 湯浅 新二(ゆあさしんじ)(18)三浦の親友
 その他


〜本編〜

○里中高校・校庭
   校舎の下に大きな救命マットがある。
○同・教室
   窓が一つ開いている。
   先生がその窓際に立ち、周りを囲むよ
   うに生徒がいる。その中に三浦もいる。
   手には携帯を握っている。
先生「それでは、避難訓練として、下のマッ
トに落ちてもらいます。誰か、勇気ある
 もの〜」
生徒達「え〜」「マジでぇ〜」「怖ぇ〜よ」
   と、誰も手を挙げない。
三浦「はいっ!」
   と、手を挙げる。
生徒達「おーっ!」
先生「ほほう。三浦」
   花実、携帯のサブモニターに現れ
花実「(小声で)先輩!?ホンキですか?」
三浦「(小声で)もしかしたら、意識が戻る
 かもしれない。色々やってみないと」
花実「(小声で)ちょっ、危ないですよっ」
   と、窓の側に行く。
先生「よし……その勇気素晴らしいぞ」
三浦「行きます」
先生「だが、実際には落ちなくていい。先生
 の冗談だからな……」
   三浦、窓から飛び降りる。
先生「って、うおおおいっ!」
   と、驚く。
   騒いで、下を見る生徒達。

○同・校庭
   マットに落ちる三浦。
三浦「……」
   手に持った携帯のサブモニターに花実
   が映る。
花実「先輩!?だ、大丈夫ですか!?先  
 輩!」
三浦「……ダメだったか……」
   と、笑う。
花実「……もうっ……ってかあたしだって怖
 かったです!」
三浦「ごめんごめん」
   花実、吹き出す。
   その様子を窓から見ている生徒と先生。
湯浅「……笑ってる……先生、責任とれよ 
 な」
先生「……あの冗談は今年で封印する」
   マットの上で笑っている三浦。
花実「あははっ!」
   と、楽しげに笑う。

○同・学校裏(曇り)
   座って、携帯を見ている三浦。
三浦「う〜ん……他になにかないかな……」
花実「無理しないでいいですよ。先輩。大丈
 夫ですからあたし」
三浦「ダメだよ。いつまでもこのままじゃ。
 なにか方法があるはずだから」
花実「このままでいいのにな……」
   と、ボソリ。
三浦「ん?」
花実「いえっ。なんでもないです!」
三浦「う〜ん……」
   と、雨が降ってくる。
三浦「うわ……」
   と、急いで校舎に戻ろうとする。
   かなり強い雨になる。
花実「すごい雨……夕立かなぁ……」
三浦「うおっ」
   と、足を滑らせて携帯を落とす。
   水溜りに落ちる携帯。
三浦「あっ!」
   と、落ちた携帯に気が付き拾う。
三浦「(画面を見て)大丈夫?花実ちゃん」
花実「うん。平気です」
三浦「ゴメンね。濡れちゃったね。今拭くか
 ら」
   と、制服の中に携帯を押し込む。
   そのまま、校舎へと走る三浦。
花実「……」
   と、三浦の胸の中で幸せそうな笑顔。
○第一総合病院・花実の病室(個室)
   寝ている花実。
   岬、花の入った花瓶を置く。
岬「……戻ってきてよ。花実。みんな心配し
 てるンだから……」
   と、悲痛の表情で寝ている花実を見る。
   そして、部屋を出て行く。
   静まり返った病室。
   寝ている花実。
   と、急に大きく息を吸う。
   花実、目を覚ます。
花実「……ああ、楽しい……」
   布団を持ってウレシそうにする。
花実「う〜っ!先輩とずっと居れて超幸せ 
 っ!もう本当にこのまま携帯の中に居たい
 っ!マジ最高っ!」
   と、花瓶の花に気が付く。
花実「……ごめんね。お姉ちゃん……。でも、
 もう少しだけ、三浦先輩と居させて。もう
 ちょっとだけだから……」
○里中高校・校舎(夕)
   チャイムが鳴る。

○同・教室(夕)
   三浦が席で鞄に教科書を入れている。
   その横に携帯がある。
花実「先輩、今日は帰ったらなにします? 
 ゲームの続きでもしますかぁ?」
三浦「今日は、ちょっと岬に会ってから帰る
 よ。最近全然会ってないしね」
花実「お姉ちゃんに会うンだ……そっかぁ…
 …」
三浦「そろそろ、ここに来るはずだけど… 
 …」
   廊下からドタっと音がする。
女生徒の声「キャア!」
   廊下が一気に騒がしくなる。
三浦「?」
花実「なんだろう?」

○同・廊下
   教室から顔を出す三浦。
   生徒達が群がっている。
   三浦が、その中を覗き込む。
   岬が倒れている。
三浦「岬っ!?」
花実「!」

○同・保健室
   ベッドに寝ている岬。
   その側に座っている三浦。
三浦「だから体に気をつけろって言ったんだ。
 なにやってンだ」
岬「大丈夫よ……平気」
三浦「俺が平気じゃない」
岬「……」
三浦「お前に倒れられると困るンだ」
岬「……ごめん」
三浦「花実ちゃんのことも大事なのはわかる。
 俺と多少会えなくなってもいい。でも、お
 前まで倒れるなよ」
花実「……」
   と、少し不機嫌な表情。
岬「ごめんね……三浦君……」
三浦「無理、しないでくれよ」
花実「……」
岬「……うちは共働きだから……花実のお見
 舞いにあんまりいけないの。だから、あた
 しが行かないと……ずっと花実の側にいて
 あげないと……」
三浦「お前、泊り込んでるのか?病院に」
岬「……あの子、寂しがりやだから。一人だ
   と寂しいと思って……」
   花実、ハッとする。
三浦「花実ちゃんなら、寂しくないよ」
岬「……? どうして?」
三浦「えっと……そのなんとなくそう思うっ
 ていうか……そ、そんなにお前が無理する
 ことないってことだよ」
岬「……でも」
三浦「……」
花実「……」
   と、考え込む。

○小枝家・玄関
   岬が玄関前で振り返る。
   三浦が立っている。
三浦「体、本当に気をつけろよ」
岬「……うん」
   と、家に入っていく。
三浦「……」
   と、岬の影を見つめる。
花実「……」

○住宅街・道
   三浦、歩いている。
三浦「……」
   と、考え込んだ表情。
   三浦、携帯を取り出して開く。
   花実がいる。
花実「……」
   と、考え込み何も言わない。
三浦「……花実ちゃん……やっぱり全部話そ
 う」
花実「……」
三浦「隠していたって仕方ないじゃないか。
 全部話せば、岬も楽になる」
花実「……」
三浦「岬が可哀想だよ。岬、なんにも知らな
 いンだ。知らないで傷ついている」
花実「……」
三浦「ねっ?花実ちゃん」
花実「なんにも知らないのは、先輩だよ」
三浦「……?」
花実「お姉ちゃんのことばっかり心配してる。
 私の気持なんて全然分かってない」
三浦「そりゃ、こんな状況が言いにくいって
 いうのは分からないでもないけど……」
花実「……そんなことじゃない」
三浦「なんのこと?」
花実「……先輩、一つ聞いてもいい?」
三浦「……何?」
花実「お姉ちゃんのこと、どれくらい好  
 き?」
三浦「……」
花実「結婚したいってくらい好き?」
三浦「……うん」
花実「お姉ちゃん以外の人とは考えてな  
 い?」
三浦「……ああ、岬以外は考えられない。そ
 のくらい好きだ」
花実「……そう」
   と、ショックを受ける。
三浦「……?」
   と、花実の具合が悪そうなことに気が
付く。
花実「やっぱり……お姉ちゃんには勝てない
 なぁ……」
   と、悲しそうに笑う。
三浦「……花実ちゃん?具合、悪いの?」
花実「……あのね。先輩。あたしスゴイ悪い
ことして……たんだよ」
   と、画面の明るさが落ちる。
三浦「……う、うん。ちょっと待って。花実
 ちゃん。携帯の調子がおかしい」
花実「はぁ……はぁ……なんだろう……なん
 か苦しい……」
三浦「花実ちゃん!?大丈夫!?」
花実「はぁっはぁっ……ね、先輩。言わなき
 ゃいけないことあるの……」
三浦「ちょっと黙って!あとで聞くからっ!
 携帯が壊れているンだよっ」
   と、雨が降ってくる。
   見上げる三浦。
三浦「……この間の雨……」
花実「聞いて……なんかヤバいから……」
三浦「水溜りに落ちた時に壊れてたンだ… 
 …」
花実「あ、あのね……」
三浦「携帯屋に行く!きっとなんとかなるか
 らっ!待っててっ!」
   と、走り出す三浦。

○商店街(雨)
   走る三浦。携帯を胸に入れている。
花実「はぁっ!はぁっ!」
   と、苦しそうに顔を歪めている。
三浦「もうちょっとだから待って!もうちょ
 っとで着くから!」
花実「せっ、先輩……聞いてっ……あたしっ
 ……本当は……」
   三浦、走る。

○同・携帯ショップ前
   トタン屋根があるお店。
   三浦がその下に走って止まる。
三浦「間に合ったっ!」
   と、店の中は暗い。
三浦「!? なんで?閉店?」
   張り紙がウィンドウに貼ってある。
   ――「移転のお知らせ」
三浦「……マジかよ」
花実「先輩っ……」
三浦「他の店がある!探してみるっ!」
   と、走り出そうとする。
花実「お願いっ!話を聞いてっ!」
   と、叫ぶ。
   三浦、止まって
三浦「……」
花実「はぁっ!はぁっ!あのね……あたし、
 本当は戻れたンだ……」
三浦「?」
花実「本当は、戻れたの自分の体に……」
三浦「えっ?」
花実「でも……あたし……先輩といるのが…
 …楽しくて……」
三浦「……」
   と、驚いている。
花実「ごっ……ごめんなさい」
三浦「(気付いて)じゃ、じゃあ!今すぐ戻
 るんだ!携帯動かなくなる前に!早く
っ!」
花実「……戻れないの……なんか……意識が
 ……遠のいて……」
三浦「ダメだ!頑張って戻るんだっ!」
花実「な……なんか……ダメみたい……」
   と、うつろな表情になっている。
花実「最後に……先輩……あたし……あたし
 ね……」
三浦「しっかりしてっ!今から直せるところ
 探すからっ!」
花実「あたし……先輩のことが……」
   三浦、キュロキョロとあたりを見回す。
三浦「どこだ?他にもあるはずなんだっ!」
花実「……」
   と、目を閉じてしまう。
   ピーッと携帯から音が鳴る。
三浦「!」
   画面が暗くなる。
三浦「……嘘、だろ?」
   と、半ば呆然。
   そして、電源のボタンを押す。
三浦「大丈夫だろ?点くだろ?」
   画面は反応しない。真っ暗。
三浦「……」
   と、呆然と携帯を見つめる。
   さらに強く降りしきる雨の中、呆然と
   携帯を見つめる三浦。

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