何処かに 後編(シナリオ32)
後編です。前編を読んだ方は是非どうぞ。
□内容:チャット友達と会うことになった愛。だが待ち合わせに現れたのは意外な人物だった。

前編を読んでない方はこちら

□人  物


   
真中愛(17)高校生

   康利(52)愛の父親

   奈々枝(47)愛の母親

   仁(22)愛の兄

〜本編〜

○真中家・雨

   小雨が降っている。

   愛が傘を開きながら玄関から出てくる。

愛「いってきます」

 

○駅・構内・雨

   カフェのある駅。冒頭と同じ。

   愛が改札から出てくる。

愛「……」

   と、カフェを見つめる。

   仁が座っていた席には誰も居ない。

   愛、バックから携帯を取り出す。

男の声「やぁ」

   愛、その声に顔を上げる。

   目の前には仁―ではなくて見知らぬ男。

愛「え?」

   と、驚く。

男「待った?」

   と、愛の後ろにいる女性に走っていく。

   愛は体をよじって男を避ける。

愛「……はぁ」

   その時、携帯が鳴る。

   発信者はtoshiとある。

   愛、携帯を開く。

toshi:今、着いたよ。来てる?

   愛、顔を上げてカフェを見ると仁が以

   前と同じ席に座って居るのが見える。

   愛、打ち返す。

LOVE:うん。

toshi:俺のことわかる?

愛「……」

   と、操作する。

LOVE:お兄ちゃん……?

   すると、画面がチャット画面に切り替

   わる。

愛「……携帯チャット?」

   チャット画面に

toshi:やっぱり、愛だったんだ。

   と、出る。

   愛、すぐに仁を見る。

   仁は携帯を見つめている。

愛「お兄ちゃん……本当に……?」

   チャットの音が鳴る。

toshi:向かい側にファーストフードがある

 だろ?そこに座ってくれないか?

   と、出る。

愛「……な、なんで?」

toshi:そのほうがいい。聞かれたくないから。

愛「……」

   と、カフェを見ると仁がいる席の両側

   はお客で埋まっている。店内も混み合

   っている。

 

○ファーストフード店・雨

   ガラス張りの店内。仁がいるカフェが

   向かいに見える。

   窓側の席に愛が座る。客が多く、仁の

   真向かいとはいかず隅の方に。

   愛、携帯を操作している。

toshi:父さんと母さんは元気?

愛「……」

   と、操作。

LOVE:どうして今まで連絡してくれなかった の?お兄ちゃん……。

toshi:すまない。

LOVE:っていうかあの事故で生きてたなんて

 ……信じられない。

toshi:

   と、画面が出ただけで、メッセージが

   ない。

愛「……」

   と、向かい側にいる仁を見つめる。

愛「説明してよ……」

toshi:連絡出来るってわかったのはこの間だ

 ったから。お前があのチャットルームに良

 く入っていたのを思い出して……。

   愛、顔をしかめて

LOVE:連絡なんてチャットじゃなくても出来

 たじゃない?それに普通すぐに電話する

  よ!

toshi:ごめんな……。

LOVE:とにかく、家に戻ろうよ。母さん、大

 変なのよ。

toshi:どうかしたのか?

LOVE:こんなのじゃ説明できないでしょ!一

 旦家に戻って話そうよ!

toshi:

   と、またメッセージがない。

   愛、仁を見る。

   仁は変わらず、携帯を見つめている。

愛「(ため息)……いい加減にしてよ」

   と、チャット画面に気がつき見る。

toshi:なぁ、愛。俺が見えるか?

愛「……」

   と、呆然と画面を見詰める。

toshi:俺が見えているのか?

   と、さらにメッセージ。

   愛、向かい側の仁を見る。

   仁が顔をあげている。

   愛、少しイラつきながら操作。

LOVE:うん。ハッキリと見える。絶対お兄ち

 ゃんだよ。

toshi:そうか

愛「お兄ちゃん……?」

toshi:今日はもう行かなくちゃ。時間だから。

愛「ちょっと、何言ってんのよっ!」

   と、バックを持って席を立つ。

toshi:会えてよかったよ。

愛「……」

   と、顔を上げ、仁がいる席を見る。

   仁が、忽然と居なくなっている。

愛「!」

 

○同・店先・雨

   愛が飛び出してくる。

   改札から大勢の人が出てくる。

   愛、人波に押されながら

愛「お兄ちゃんっ!」

   と、波の向こうに兄の後姿を見つける。

愛「お兄ちゃん!待って!」

   仁はどんどん埋もれて行ってしまう。

愛「か、勝手だよ!お兄ちゃん!みんな大変

 だったんだよ!」

   仁はどんどん行ってしまう。

愛「お兄ちゃんがこんなことするせいで、お

 母さんも、お父さんも、あたしの生活だっ

 て、みんなおかしくなっちゃったんだよ!

 ねぇ!?」

   仁の影が見えなくなる。

   愛、人を掻き分けて

愛「待ってよっ!」

   と、手に持った携帯に気がつき。

愛「そ、そうだ」

   と、操作する。

愛「(打ちながら)待ってよ……どれだけ大変

 なのか……お兄ちゃんの勝手で……」

   と、手を止める。

愛「……お兄ちゃん……」

   その目に涙が溜まる。

   と、クリアのボタンを連打。

愛「(打ちながら)あたし……寂しかったん

 だよ。お兄ちゃん……。お兄ちゃんがいな

 くなっちゃって……本当に寂しかったっ!

 お兄ちゃん……お願いだから……戻ってき

 てよ!」

   と、送信ボタンを押す。

   すると、人に押し出されるように駅か

   ら出される。

 

○駅前・雨

   人が大勢駅から出てくる。

   目の前に車道。そして横断歩道。

   愛が人波にもまれながら出てくる。

   愛、涙を流しながら見渡す。

   すると、車道の反対側を歩く仁の後姿

   を見つける。

愛「お兄ちゃんっ!」

   歩行者信号は青。だが点滅している。

   車が走ってくる。

   仁、どんどん歩いて行ってしまう。

愛「待ってっ!待ってよぉっ!」

   と、泣きながら歩道を渡る。

   信号機が赤になる。

   車が走ってくる。

愛「一緒に暮らそうよ!一緒に……」

   と、車が来ていることに気がつく。

愛「!」

   と、携帯を落とす。

   愛、目を瞑る。

   その時、愛の体を車が通り抜けていく。

愛「え?」

   そして、また車が何台も愛を通り抜け

   ていく。

愛「え?え?」

   落ちた携帯電話が通知を告げる。

   愛、それを立ったまま見つめる。

   画面に―

toshi:俺はそっちにはいけないんだ。お前と

 父さん母さんたちがいるそっちには、まだ

 いけないんだよ。

   愛、目を見開く。

 

○暗転

 

○真中家・雨

   さっきまで綺麗だった一軒家が、今は

   寂れている。表札もない。

 

○同・仁の部屋

   なにもない部屋。

   仏壇があった場所には何もない。そこ

   に柱が見える。

   仁と愛の成長を記録したあとが見える。

   仁―135cm 愛―105cmと。

   呼んでも何も返って来ない部屋がそこ

   にある。

 

○駅前・雨

   仁、横断歩道を振り返っている。そこ

   には誰も居ない。ただ車が通りすぎる

   だけ。

仁「……愛」

   と、目を閉じる。

   傘もささずに歩く仁の後姿。

   シトシトと雨が降りしきっている。

 

終わり



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