月のウサギ(シナリオ11)
 現代の救世主とはなにか?と考えていたところ、昔話の「月のうさぎ」を思い出して、色々考えて作品にしてみました。
□内容:巨大隕石の激突が危ぶまれる中、政府は有人ミサイルで打ち落とす計画を立てる。その搭乗者に志願しようとする喜男。


□人  物

 喜男(25)
 父(60)
 母(58)
 妹(19)
 Nはナレーション

〜本編〜

○ 黒バック
N「むかしむかし、あるところにサルとキツ
 ネとウサギが棲んでいました。彼らはいつ
 も誰かの為に役立ちたいと考えていました」
 
○ 本屋
  ――月のウサギ
  という題名の絵本を手に、立っている喜男
(25)しばらく見つめてから、本を持ってそこ
  を去る。
  レジの前で、会計をする喜男。
  
○ 街
  都会の風景。多くの人が歩いている。
  大きなビルに巨大モニターが付いている。
  TVモニターにはニュースが流れている。
  「巨大隕石、首都圏接近」とテロップが流
  れている。
TV「政府は大型ミサイルでの撃墜を予定し
 ています。またこのミサイルは精度を上げ
 るため有人飛行で飛ばす予定で、各地から
 非難の声が集中しています」
  ビルの電光掲示板には「ミサイル搭乗志
  願者募集」と流れている。
  街の人ごみを、歩く喜男。手には本屋の
  レジ袋。
  その喜男の顔。
  
○ 電車内(夕方)
  8割ほど混んでいる車内。
  喜男、窓側に立って窓の外を眺める。手
  には本屋のレジ袋。袋越しに中に入って
  いる本の題名が見える――月のうさぎ
N「ある日、飢えで倒れている老人がいまし
 た。三匹は老人を助けようとしました。サ
 ルは木の実をとってきたり、キツネは川で
 魚をとったり。老人はしだいに元気になり、
 二匹を大いに可愛がりました」
  喜男の視界にに車内でイチャつくカップ
  ルが入る。
  カップルの男は、女の尻にしきりに手を
  やり、女は笑いながら、手を払っている。
喜男「……」
  今度は、近くでメールを打つサラリーマ
  ン。結婚式場帰りの、家族。
  車内の人たちを、見つめる喜男。
  喜男のポケットで、携帯電話が震える。
  喜男、それに気付いて携帯を取り出して
  開く。
  画面にはメールの件名が出ている――
  「新サービスのご案内」とある。
  喜男、それをしばらく見つめる。まわり
  では、カップルや学生の楽しそうな話し
  声。
  喜男、バチャっと携帯を閉める。
  
○ 喜男自宅・外観(夜)
  喜男の家が見える。月が出ている。
  
○ 喜男自宅・ダイニング
  TVがおいてある。食卓に料理が並べら
  れている。
  そこに喜男と妹、母、父が座って食事を
  している。
母「仕事は見つかったの?」
喜男「……」
母「そう」
父「……」
N「サルやキツネは、獲物を捕まえることが
 できるのに、ウサギは捕まえることができ
 ません。毎朝、森へ出ては長い耳を尖らせ、
 赤い目を光らせて、獲物を捕らえようと必
 至に頑張ります。しかし、捕まえることが
 できません」
  喜男、箸を置いて席を立つ。
  
○ 同・喜男自室
喜男「月のうさぎ」を読んでいる。
  絵本に書かれた文章――ウサギは焚き火
  にあたる老人に近寄り言いました『私を
  食べてください』そう言うとウサギは、
  そのまま焚き火に身を投げて焼け死んで
  しまいました。
  挿絵には、炎に飛び込むウサギの絵。
  喜男、本を閉じて窓の外を見上げる。
  
○ 喜男自宅・外観(昼)
  喜男の家の前に、郵便局員がバイクでやっ
  てくる。ポストに郵便物を入れて去る。
  喜男、玄関から出てきてポストを開ける。
  喜男の手には大きめの封筒。裏を返す―
  ―内閣府 国家安全保障委員会
  
○ 喜男自室
  机の上に、封筒があり書類が何枚もある。
  一番上の書類に――隕石撃墜ミサイル搭
  乗志願書
  それに目を通している喜男。
  その手が止まる。
  一枚の書類を手に取り、見つめる――親
  族同意書
喜男「……」
  
○ 喜男自宅・玄関
  母と父が、買い物袋を持って帰ってくる。
  
○ 同・リビング
  母が買い物を持って、台所へとむかう。
  母、食卓においてあるものに気が付く。
  それを手にとって、驚きの表情。
  ×  ×  ×  ×
  食卓に座る喜男。その向かいには両親。
  食卓の上には「親族同意書」
父「なんでこんなことをするんだ?」
喜男「……」
父「息子の自殺を放っておく親がいるか?」
喜男「……」
母「なにかいいなさい」
喜男「……」
父「悩みがあるなら、言ってみろ」
喜男「……ハンコ」
母「え?」
喜男「……ハンコ貸して。それでいいから」
父「バカなこというなっ!」
  と、机を叩く。
喜男「……」
母「(泣き出す)」
父「なんで死にたいんだ!くだらないこと考
 えるな!」
喜男「……」
  喜男、立ち上がる。
父「(息を少し整える)……」
  喜男、タンスを開けて何かを探し出す。
父「なにしてんだ」
  喜男、無言で探す。
父「(近寄って)いい加減にしろ!」
  と、喜男を掴んで突き飛ばす。
喜男「っ……」
父「お前……!本当にっ……!どうなってん
 だ!?」
  母が、より一層泣き出す。
  妹が、部屋を開けて
妹「(驚いた表情)……どうしたの?」
父「……」
喜男「……」
父「こんなもの絶対に同意しないからな!」
喜男「……必要とされたいんだよ……」
父「?」
喜男「お前らみてーに!誰からも必要とされ
 ている奴にはわかんねーだろうけどよ!俺
 は必要とされたいんだよ!生きてても意味
 ねーとか、死ねばいいとか思われて生きて
 んのは、もう嫌なんだよっ!」
父「誰もそんなこと思ってないだろう!」
喜男「思ってんだよ!てめーも!(父親に)
 てめーも!(母親に)てめーも!(妹に)
 全員どこもかしこも、思ってんだよっ!!
 だから俺が死んでそれで全員助かれば、
 なによりじゃねーか!てめーらだって、嬉
 しいだろうが!あぁーっ!!」
父「……」
母「(泣いている)」
妹「……」
喜男「はぁ……はぁ……」
父「そうだと本当に思ってるのか?」
喜男「……」
父「そう思ってたら、誰が止めるんだ」
喜男「……」
父「もっと、考えて生きろ」
  と、部屋を出る。
喜男「……」
  
○ 同・自室
  一人、考え込む喜男。
  TVをつける。
  TVからニュースが流れている。
TV「隕石は大きく軌道を変え、地球には激
 突せず、月にあたることが分かりました。
 政府は……」
  それを見て呆然とする喜男。
喜男「……俺、バカだ……」
  と、置いてある「月のウサギ」を見る。
N「老人に化けていた帝釈天は、そんなウサ
 ギの行動に、深く心を痛めてウサギの魂を
 月に宿して、いつまでもその思いを人々に
 見せることにしたのでした……」


終わり


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