凍った魚(シナリオ15)
 とても暗い作品です。くらーい雰囲気に、綺麗なシーンが特徴の作品かと思います。
□内容:水族館に展示された凍ったシーラカンス。それを毎日見つめ続ける一人の女。ある日、女は見つめることをやめ、行動にでる……。


□人  物

 女(30)
 係員
 館長
 警察官

 説明
 Nはナレーション

〜本編〜

○水族館
  大きい水槽に魚などが泳いでいる。沢山
  の水槽が設置されている。人が沢山いる。
声「約1億2千万年前に生きていたとされる古
 代魚。シーラカンスが、氷の中で発見され、
 現在C-6水槽にて展示されております。
 瞬間的に凍った状態で、生きているとされ
 ています」
  古代魚の前の水槽は、人だかりができて
  いる。
  水槽には、シーラカンスが氷に包まれ展
  示されている。水は入っていない。
声「立ち止まらずにご覧下さい」
  流れる人の中、女は立ち止まってそれを
  見つめている。
  魚の目。
N「あなたは生きている……。凍っていても
 生きている……でも、死んでいる」
  女の魚を見つめる目。
N「凍っているは、嫌いよね」
  係員がくる。
係員「あの、お客様。他のお客様のご迷惑と
 なりますので……」
  女、聞こえていないのか見つめ続ける。
N「凍っているのは……私も」
  
○暗転
N「嫌い」
  
○水族館(夜)
  ひと気は無い。
  シーラカンスの水槽の前にたたずむ女。
  足許にボストンバック。
  係員が二人来る。
係員「おい、またあの女いるぞ?」
係員B「ちょっといってこいよ。オマエ」
係員「え〜……めんどくせぇよぉ。お前いっ
 てこいよ。なんか、あの女。目がイッてる
 から嫌だよ」
  女、魚を見つめ続けている。
係員「じゃあ、じゃんけ……」
  と、女がボストンバックを重そうに持ち、
  振り回すように水槽にぶつけて割る。
係員「え?」
  女は、ボストンバックから角材を放り出
  して、そこにシーラカンスを入れる。
係員「ん?え?」
  それを持って、その場から立ち去る。
係員「……」
係員「……おっ!おい!け、警察!」
  
○車の中
  女、車を運転している。
  ボストンバックを、撫でて
女「解かしてあげる」
  
○館長室
  館長室と書かれたプレートが机に乗って
  いる。
  館長が電話している
館長「はいっ、そりゃもう。かなりの入館数
 です。予算を軽々超えますよ。シーラカン
 ス効果は絶大ですよ。ええ、私の本社への
 件、考えておいてください。はいっ。ええ」
  と、係員が急いで入ってくる。
係員「あの!館長!」
館長「(振り向き)なんだ?」
  
○ホテルの一室
  TVがついている。ベットの上には空の
  ボストンバック。
  シャワーの音が鳴っている。
TVの音「犯人は現在逃走中です。シーラカ
 ンスは条件を満たした状態でなければ保存
 で きず、もし氷が解けてしまえばその生
 存は不能ではないかといわれています。現
 在警察は……」
  シャワー室で、カラの浴槽に置かれ、シャ
  ワーを浴びさせられているシーラカンス。
  湯気が立っている。
  女、それを見つめている。
女「すぐに、解けるわ……そうしたら……」
  ドンドンッ!と、戸を叩く音。
声「お客様、少々確認したいことがございま
 す。開けてくださいっ」
女「(見て)……」
  と、シャワーの蛇口をさらにひねる。
  シャワーの勢いが増す。
  氷が解けて、尾っぽが露出する。
女「(少し笑い)もう少し……だからね」
  と、シャワー室を出る。
声「お客様。こちらでお開けしますがよろし
 いですか?お客様」
  女、チェーンをかける。
  ガチャと、扉が開くがチェーンが引っか
  かり開かない。
声「お客様、チェーンをはずしてくださいっ」
  女、徐に窓の外を見る。
  警察の車両が、数台止まっている。
  
○ホテル外
  館長が、警察官に何か言っている。その
  横には係員がいる。
館長「氷が解けたらダメになってしまうんだ!
 早く捕まえろ!」
警察官「全力でやっていますからっ!」
  
○一室
  女、それを見つめている。
女「生きるのよ。もう、凍りたくないもの」
  と、シャワー室に向う。
  シャワー室のシーラカンスの氷は、ほと
  んど解けている。
  それを抱きかかえ、シャワー室を出る。
  そのまま、徐に窓へ向う。
  シーラカンスを抱いたまま、窓から身を
  大きく乗り出す女。
  
○ホテル外
  警察官が、女に気がつく。
警察官「あっ!」
館長「(気がついて見上げる)あぁ!!」
女「……一瞬でも生きたいわよね。そう、凍っ
 て生きているより、随分いいもの。近頃本
 当に凍りすぎているもの」
館長「おっ!おい!やめろ!落とすな!」
  女の手の中でシーラカンスが、少しずつ
  動き出す。尾を振って動き出す。
女「アハっ。生きてる……生きてる……」
係員「……動いている……」
  女、窓の外を見る。広がる大都会。大き
  な月。星空。
女「死んだように凍って生きるより、一瞬で
 も生きていたい。そう、生きるの。活きる
 の。生きるより活きていたいの」
  と、シーラカンスを空に投げる。
  水しぶきを跳ねて、シーラカンスは都会
  の夜空を体をくねらせ泳ぐ。
  シーラカンスの、生き生きとした目。
  女の生き生きとした目。
  下からソレを見上げる人々。
  館長の驚いた顔。
  ドチャっと、下に落ちるシーラカンス。
館長「……あっ……」
  と、シーラカンスに向う。
  館長、シーラカンスを見て
館長「傷は!傷はないか!おい!」
  と、係員が向ってくる。
係員「ど、どうですか!?」
  と、その時ドサリと音がする。
  係員が振り向いて見る
係員「あ……ああ……」
  女が、頭から血を流して地面に落ちてい
  る。
  警察官がすぐに近寄る。
警察官「はやく!救急車を!早く!」
係員「か……館長……」
館長「おい、早くこれを冷凍しろ。まだ使え
 る」
係員「……え?」
館長「早く冷凍できる業者にあたれ!!」
係員「で、でも……」
館長「死んでいようがいまいが、凍っていれ
 ばまだ展示できる。どっちでもかまわんの
 だ。早くしろ!」
係員「は……はい」
  シーラカンスの目。生き生きと開いてい
  るが、光はない。
  女が、さらに血を流して倒れている。
  警察が、まわりをあわただしく動いてい
  る。
  女の目、生き生きと開いているが、その
  目に光はない。
  女にシートがかけられる。
  
○暗転
「生きるより、活きていたいの」

終わり



BBS

ご感想はこちらまで


戻る
当サイトに掲載されている作品を漫画化および、映像化、舞台化その他仕事依頼などは、
下記のアドレスまでご連絡下さい。
メールアドレス paddle_life○hotmail.com
(注・@マークが抜いてありますので、ご連絡の際はお手数ですが@マークを○の部分に挿入の上ご送信ください)


Topへ