一言の雪(シナリオ26)
 課題作品。中々厳しいご意見を頂いた作品。分かりづらく、自己陶酔系と指摘され、かなり反省した作品。自分が大好きな手法で描いただけに、少々ショックを受けたのを覚えています。
□内容:恋人を残し事故で死んでしまった多田圭輔(25)。しかし、帽子を被った謎の男の力で彼女が持つ縫い包みに魂を宿され、 彼女を見守ることが出来るようにしてもらえる。だが、期限は一年。そして、その一年が経ちいよいよ天国へと召される時が来た。。。

イメージイラスト by hidesato

□人  物

 前田美沙(23)
 多田圭輔(25)
 井中武(30)
 帽子の男(?)
 トナカイの芸人
 サンタの芸人


〜本編〜

○東京タワー(夜)
   東京タワーが見える夜景。

○トキワマンション(夜)
   5建てほどのマンション。

○同・美沙の部屋ダイニング(夜)
   窓から見える東京タワー。
   8畳ほどのダイニングキッチン。カウ
   ンターキッチンの形式。他に壁掛け時
   計にソファ、TV。テーブル、上には
   携帯電話。
   カウンターに、多田圭輔(25)と前田
   美沙(23)が写る写真たて。熊の縫い
   包み。額に血のついた跡。
   TVでお笑い番組。芸人2人がサンタと、
   トナカイの扮装でコント。パイプ椅子
   に腰掛け対面して会話している。
   ソファに腰を掛け、雑誌をめくりなが
   らコーヒーを飲んでいる美沙
   縫い包みが見える。
トナカイの芸人「サンタさん。今年は配れま
 せんね」
サンタの芸人「俺、服役中だからな」
   と、そこで笑い声が入る。
   美沙、雑誌を見ている。
トナカイの芸人「あれだけ約束したでしょ!
 真面目になって子供たちを見守るって!」
   美沙、TVを見る。
サンタの芸人「今度こそ!今度こそ約束す
  る!死んでも見守るよ!だから……保釈金
   払って」
トナカイの芸人「ざけんな」
   と、つっこみ。
   と、笑い声が入る。
   美沙、TVを観て悲しそうな表情。暗
   くうつむく。
   縫い包みの顔。
   TVから笑い声が聞こえている。
   美沙、リモンコンを操作しTVを消す。
美沙「思い出しちゃった……」
   カウンターから落ちる縫い包み。
美沙「……」
   と、見て縫い包みを戻す。
美沙「丁度一年か……あれから」
   と、置いてある写真盾を見る。
   多田の笑顔。
美沙「……圭輔、嘘つきだよ」
   と、切ない表情。
   また落ちる縫い包み。
美沙「……」
   と、拾い上げる。
   縫い包みの顔。
美沙「……もしかして圭輔、いるの?」
   縫い包みの顔。
   ピピピっと音が鳴る。
美沙「(ため息をつき)そんなことあるわけ
 ないか……」
   と、縫い包みを戻す。
   そして、部屋の電気を消して出て行く。
   縫い包み。宙を見ている。
   帽子の男が突然現れる。ステッキを持
   っている。
帽子の男「久しぶりだな」
   縫い包み、彼を見ている。
帽子の男「十分に彼女を見守ることが出来た
 か?圭輔」
   縫い包みの顔。
帽子の男「そうか……残念だがあの事故から
 明日で一年だ。約束どおり、行くべきとこ
 ろへ行くぞ」
   縫い包みの顔。
帽子の男「本来なら、あのまま行っていたん
 だ。これ以上はわがままだ。最後の日をし
 っかり過ごせ」
   と、きびすを返す。
   縫い包み、横に倒れる。
帽子の男「……」
   と、縫い包みを見る。
   帽子の男、ため息を一つ。
   振り返り、ステッキで縫い包みの鼻先
   をコツリとする。
帽子の男「特別だ」
   縫い包み、無言で見つめる。
帽子の男「一言だけ。一言だけしゃべれるよ
 うにした。最後に、彼女に伝えたいことを
 伝えるといい……」
   と、きびすを返し
帽子の男「明日の0時がタイムリミットだ。
 後悔の無いようにな……」
   縫い包み、見ている。
携帯の音「メールだよ!メールだよ!」
   帽子の男、ステッキを床にコツリ。消
   える。
   縫い包みが宙を見つめている。
携帯の音「メールだよ!メー……」
   と、音が切れる。

○トキワマンション(朝)
   スズメが鳴いている。

○同・美沙の部屋・リビング(朝)
   美沙、コートを着ている。
   縫い包み、変らず宙を見ている。
   美沙、振り向いて縫い包みに
美沙「どう?このコート。変じゃない?」
縫い包み「……」
美沙「なんてね……じゃあ、お留守番よろし
 く」
   と、熊のぬいぐるみの頭をポンと叩く。
   部屋を出て行く美沙。
   遠くで玄関を出る音。
   静まり返る部屋。
縫い包み「……」

○東京タワー(夜)
   ライトアップされた東京タワー

○街(夜)
   東京タワーが見える街。
   クリスマス一色の街。サンタの扮装を
   したケーキ売りや飾りの付けられたツ
   リー。カップル達が行き交う。

○美沙の部屋・リビング(夜)
   灯りのない暗い部屋。
   時計が見える――11時50分。
縫い包み「……」
   宙を見つめているそれにかぶせ
   て秒針の音。
   玄関を開く音がする。
   美沙が部屋に入ってくる。
   ぱちりと電気がつく。
   美沙、気付く。
   縫い包みが落ちる。
美沙「あっ……」
   と、縫い包みを拾う。
美沙「……」
   と、切ない顔で、縫い包みを見る。
   縫い包み、美沙と目が合う。
   時計――秒針は11時57分
   縫い包みの鼻先がピクリと動く。
縫い包み「み……」
美沙「ん?」
井中の声「美沙ちゃん、入ってもいい?」
   と、玄関から聞こえる。
美沙「あ、うん。入ってぇ」
   井中が部屋に入って来る。
井中「おっ。ここが美沙ちゃんの部屋かぁ」
美沙「ちょっと散らかってるケド。適当に座
 って」
   と、縫い包みを持ったまま。
縫い包み「……」
   時計――11時58分
井中「……」
   と、美沙を後ろから抱く。
美沙「あっ……」
   と、顔を赤くする。
   シンとする部屋。秒針の音が響く。
井中「……好きだよ」
縫い包み「……」
   と、抱いている美沙を正面に向ける。
   見詰め合う井中と美沙。
   美沙の手。力が抜けていき持っていた
   縫い包みがポトリと落ちる。
   縫い包み、そのまま壁を見つめる。そ
   れにかぶせて声がする。
美沙の声「……シャワー浴びる?」
井中の声「うん」
美沙の声「こっちだよ」
   と、部屋を出て行く足音。
   時計――11時59分。
   落ちたままの縫い包み。
   美沙が拾い上げる。
   そして、元のカウンターの上に置く。
   横にある圭輔の写真盾を伏せる。
   美沙、笑って縫い包みの頭を撫でる。
   縫い包み、鼻先がかすかに動く。
   美沙は気付かす、部屋を出て行く。
   パチリと電気が消える。
   静かになる部屋。
   秒針の音。
縫い包み「……幸せにね。美沙……」
   時計――12時になる。
   ボーン、ボーンと定時音が部屋に響く。
   縫い包みの目の光が消えていく。。。

○東京タワー(夜)
   ライトアップされた東京タワー。
   電光掲示板の表示は0時丁度。

○同・頂上
   頂上に帽子の男が立っている。
   帽子の男、帽子のつばを少し挙げて、
   夜空を見上げる。
   細く青白い光が上っていく。

○東京タワー(夜)
   粉雪降る夜景。そこに映える東京タ
   ワー。
   クリスマスのベルの音が鳴り響く……。




終わり



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