爆弾発明(シナリオ5)
 特許の取り合いということを思いついて描いたもの。当初のイメージと大きく違ってしまいました。
□内容:時限爆弾の発明を盗んで、先に特許を取ろうとするエトー。しかし、無常に爆弾は作動。その中で苦しみ、正しさに気が付いていく。


□人  物

 エトー(35)
 ポピー(42)
 初老
 老婆
 車掌
 親子
 黒服


〜本編〜

○駅のホーム
  鉄道が止まっている。人は大勢。駅のホー
  ムは無く、列車がただ止まるというだけ
  の場所。
  その人ゴミの中を、大急ぎで走る男――
  エトー
  カバンを大事そうに抱えている。
  その後ろから
「おいっ!待て!」
  と、数人の黒服の男とポピーが走って追っ
  てくる。
  エトー、息を切らしながら必至で列車の
  脇を、人にぶつかりながら走っていく。
  そして、後ろを振り向いてポピーを確認
  する。
  すると、老人の団体客がポピー達の行く
  手を阻み、ぞろぞろと列車に乗っている。
ポピー「(怒りながら)あぁ〜っ!!どかん
 か!老人ども!」
  エトーはそれを見て、急いで列車に手を
  掛けて乗り込む。
  
○列車の中
  列車の入口で、息を切らすエトー。大事
  そうにカバンを開けて中の物を見る(何
  かはわからない)
  ボーボーっと、列車の汽笛が鳴る。
  エトーは、客室へと息を整えながら歩き
  出す。
  
○駅のホーム
  列車が煙を吐きながらホームを出発する
  ――タイトル「爆弾発明」
  
○列車・客室
  席はほぼ満員状態。立っている人はいな
  いが座るところが一つほどしかない。ボッ
  クス席。
  エトー、客室を歩きながら席を探してい
  る。
  そして、一つの席を見つけて、頭をさげ
  ながらそこに無理に座る。
  フウっと息をつき、カバンを大事そうに
  抱える。
  すると、横に座っている初老が声をかけ
  る。
初老「どちらまで?」
  と、タバコケースを開けてエトーに差し
  向ける。
エトー「(タバコ一本とって)中央都市まで」
  初老は、エトーのタバコに火をつけて、
  窓を開けてくれと手で合図しながら
初老「同じですな、私達は中央都市の見物に
 いくんですよ」
  エトーは窓を開けながら、はぁと気の無
  い返事を返す。
  初老の正面に座る老婦が、にこりと笑っ
  て
老婦「あそこの特許庁を見物に行こうと思っ
 てまして。あの建物はさぞ素晴らしいと聞
 いてますの」
初老「あなたは、あそこにはいかれましたか?」
エトー「(タバコをふかしながら)・・・特
 許庁に行くんです・・・見物ではないです
 が」
老婦「まぁ、では発明家さん?」
エトー「ええ・・・まぁ」
初老「それはそれは・・・」
老婦「で、どんな発明をなさったの?」
エトー「そ・・・それは・・・」
  と、カバンをチラリと見て、戸惑う。
初老「こらこら、初対面の方に失礼じゃない
 か」
老婦「あら、ごめんなさい。つい・・・」
  エトーは軽く頭を下げて答えた。
  と、窓の外から声がする。
「おい!乗ったは見たのだろう!」
「はい!」
「前の車両じゃないのか!?」
  その声に驚いて、窓から顔を出して後ろ
  を見るエトー。
  すると、丁度同じタイミングで、窓から
  乗り出して前の車両を見るポピーと目が
  合う。
ポピー「あっ!」
エトー「(驚いて)!!」
  と、すぐに顔を引っ込めて、席を立つ。
初老「どうかされましたか?」
エトー「(焦りながら)ト、トイレはどこで
 す!?」
初老「おお、それなら2両先のところに・・・」
エトー「どうもっ!」
  と、急いで前の車両へと走る。
  
○トイレのある車両
  席は満杯で、一人、綺麗な婦人が立って
  いる。
  連結のドアを開けて、カバンを抱えて早
  足で歩くエトー。
  後ろを振り向きポピーがこないか確認す
  る。
  すると、立っていた綺麗な婦人にぶつか
  る。
  カバンの中でカチっと音がする。
エトー「しっ、失礼」
  婦人はニコリと笑って、エトーの肩をポ
  ンと叩く。
  エトー、無視して車両の先のトイレに入
  る。
  
○トイレ
  一人用のトイレ。内装は汚くはない。
  エトー、トイレに入ってすぐに鍵を閉め
  る。
  ポピー達の声が聞こえる。
ポピー「探すんだ!わしの発明をとられるな!」
男達「はい!」
  エトーは、その声が行過ぎるまで、必至
  に息を殺して待つ。
  ポピーたちの声が行過ぎて、フウと大き
  く息をつくエトー。
  そして、抱えたカバンを開けて中を見る
  と――時計とダイナマイトがくっついた
  時限爆弾。
  それを見て、さらにもう一息つく。
  そして、カバンから出てきたエトーの女
  房の写真。
エトー「待ってろ・・・すぐに病気、治して
 やるかな・・」
  と、何度か頷く。
  その時カチカチと、音が聞こえる。
  エトー、まさかと時限爆弾を見る。
  すると、時計の針がカチカチと動いてい
  る。
  エトー、トイレのドアにぶつかるように
  慄いて驚く。
  キョロキョロとして、もう一度爆弾を見
  てみる。以前として、爆弾はカチカチと
  音をならして時計は秒針を打っている。
  ゴクリと息を呑んで、爆弾を見つめる。
  そして、気が付いたようにカバンをあさ
  り、手に取る――「特許志願書 時限爆
  弾仕様」と書かれた書類。
  持っている爆弾をそっと、便器の横に置
  き、座り込んで書類を急いでめくる。
  爆弾の設計図らしきものが、書かれてい
  るページ。
  そこに「60分にて爆発」の文字。
  驚きの表情で爆弾を見つめるエトー。
  時計の針は、12時のところを刺している。
  コンコンとトイレのドアを叩く音がする。
  エトー、それに気が付かず呆然と爆弾を
  見つめている。
  コンコンと、さらにもう一度。
エトー「(気が付いて)えっ・・・あっ・・」
  すると、婦人の綺麗な声がする。
婦人「どうか、されましたか?」
エトー「えっ・・・あぁ・・・なっ・・なん
 でもありません!」
婦人「・・・・・」
  と、一瞬ドアの向こうで沈黙があり
婦人「人の成果は、やはり自分の成果には出
 来ないものでしょう?」
  エトー、その言葉に驚く。
婦人「いらぬ責任をこうむりますもの」
エトー「なっ・・なにを・・・言っているの
 か・・」
  と、焦りながら、作り笑いを浮かべて答
  える。
婦人「大丈夫。あなたが思ってるような人で
 はありませんわ」
エトー「(疑いの表情で)・・・・・」
婦人「あなたが、助かる方法は沢山あります
 わ。まずはお考えなさい」
エトー「・・・ど、どうすれば・・!」
  と、言うが返ってくるのは沈黙だけ。
エトー「・・・どうすればいいんだ!!」
  と、また問いかけるが、声は返ってこな
  い。
  エトーは、ふさぎこんで頭を抱える。
  それでも、刻一刻と音をたてて秒針を刻
  む時限爆弾。
  エトーは、カバンを肩からとってカバン
  の中身を全て落とし出した。
  そして、その中から万年筆と爪切りなど
  を選んで取り出して便器の横に置いた。
  そして、焦りながらも仕様書を手にとっ
  て、設計図のページを引き抜いて、時限
  爆弾を正面にして座り、構える。
エトー「・・・やるしかない」

○列車
  列車が線路を走り抜ける。
  列車の走る先にトンネルが見える。
  
○老夫婦のいる車両
 老婦「そろそろ、マーキュートンネルが見え
 ませんか?」
初老「(窓を見て)あぁ・・・見えてきたよ」
老婦「窓を閉めてくださいな。世界で二番目
 に長いトンネルなんですから。煤だらけに
 なっちゃいますよ」
初老「(窓に手を掛けて)そうだなぁ」
  と、その手を止めて前の車両を見る。
初老「あの発明家さん・・・遅いのぅ・・」
  
○トイレ
  メモ帳から本やらとエトーのカバンの中
  身が散らばっている。便器の横には時限
  爆弾。多少、解体されてコードの束が出
  ている。
  時計は針はもう、すでに8時を刺してい
  る。
  その中に座って、汗だくで設計図を見つ
  めるエトー。
  仕様書には、難しそうな設計図と説明書
  きが書かれている。
  そこへ――コンコンとドアを叩く音。
  エトー、ハッとして声を返す。
エトー「はっ、はい」
男の声「あのー・・・」
  
○トイレの前
  男と子供が立っている。
  
○トイレ
  エトー、あぁなんだっという表情になる。
男の声「まだでしょうか?子供がグズるもの
 で・・・」
エトー「あ・・・、すいません。もう少しか
 かります」
男の声「あっ・・わかりました・・・」
  と、いなくなる。
  エトー、フゥっとため息をついて、時限
  爆弾を見つめる。
  そして、側に置いてある爪きりを取り、
  時限爆弾のコードが沢山絡んでいる部分
  に爪切りを持っていく。
  と、その時フっとトイレの中が暗くなる。
エトー「なんだ?」
  と、不思議そうにトイレを見渡す。が、
  構わずコードに爪切りを持っていこうと
  する。
  しかし、暗くなったせいで手元が見えな
  い。
エトー「(煩わしそうな表情で)・・・・」
  
○トイレ前
  トイレの前には誰もいない。
  そっと、トイレのドアを少しだけ開ける
  エトー。
  見ると、客はトンネルの中を興味心身に
  見ている。
  トイレのすぐ横に電灯のスイッチがある
  のがわかる。
  そのスイッチを押そうと手を伸ばす。
  すると、奥からポピーと男達の声が聞こ
  える
ポピー「降りるはずがないだろう!ちゃんと
 探せ!」
男達「はい」
  エトー、その声に驚いて手を引っ込めて、
  ドアを閉める。
  その前を通っていくポピーと男達。
  通り過ぎてしばらくして、またエトーの
  手がスイッチ目掛けてドアから伸びる。
  すると、ドアの隙間からこちらを見てい
  る子供がいる。
  じーっと見つめる子供。
  エトー、驚いてまた、そのままドアを閉
  めてしまう。
○トイレ
  薄暗いトイレの中で、ハァっと息を出す。
  焦った表情で、また座って爪切りを取っ
  て、時限爆弾のコードを見るが、やはり
  暗くて見えない。
エトー「ぐ・・・」
  それでも、カチカチと時限爆弾の音が鳴
  る。
  爆弾の時計は、10時を指している。
エトー「あと、5分・・・」
  と、呟き汗を拭ってコードを凝視する。
  すると、コンコンとまたドアを叩く音が
  する。
エトー「えっ、あ・・・はい」
  と、期待を浮かべた表情で答える。
車掌「あのー、車掌ですがどうかされました
 か?」
エトー「(瞑って苛立ち)ハァー・・」
男の声「あの、子供がもう限界みたいなんで
 す」
子供「うう〜・・・」
  エトー、その言葉に戸惑うもコードを再
  度凝視する。
  コンコンと、ドアを叩く。
車掌「開けてください」
  コードを見つめるエトー。カチカチと秒
  針の音が響く。
初老「大丈夫ですか?発明家さん」
  エトー、目を瞑って苛立つ
エトー「大丈夫ですから!!もう少し待って
 ください!!」
  と、またカチカチと秒を刻む爆弾のコー
  ドに爪切りを向ける。
  ガラっと、車両を開ける音がする
ポピー「なんだ!邪魔だ!」
  その声に驚いてドアを見るエトー。
  
○トイレ前
  車掌と、親子と初老。そしてポピー達が
  いる。
車掌「(ポピー達に)あぁ、すみません」
初老「(ドアに向かって)発明家さん、具合
 でも悪いんですかな?」
ポピー「発明家・・?」
  
○トイレ
  エトー、天を仰ぐ。
  カチカチと時限爆弾が秒針を刻む。
  それでも、コードをに爪切りを向けるエ
  トー。
ポピー「そこにいるのか!!おい!」
  と、ドアをガチャガチャとやる。
車掌「ちょっと、乱暴にしないでくださいっ」
  必至の形相になっていくエトー。
  カチカチと音は大きくなる。
子供「うえ〜ん!」
男「ちょっと、子供がさきでしょう!」
初老「発明家さん、アンタ大丈夫か?」
ポピー「(ドアを叩いて)おい!出て来い!」
  エトー、血眼の形相。
ポピー「出て来い!!おい!」
車掌「ちょっと、なんですか!?」
子供「うえ〜ん!」
初老「発明家さん!どうしたんだい!?」
  カチカチと、秒針は次第に12時のすぐ側
  にやってくる。
  エトー、切羽詰って、爪切りを置いて爆
  弾を持つ。
  そして、トイレの上の窓を開けて放り投
  げようとする。
エトー「うああああっ!!」
  ――窓の外はトンネル。
  その態勢のまま固まるエトー。
  時計は12時まであと30秒と迫っている。
  エトー、手を下げてドアにもたれかかる。
エトー「始めから・・・捨てておけば・・・」
ポピー「おい!!」
エトー「(ドアを見て)いや・・始めから間
 違っていたんだ・・・」
  カチカチと、時計は秒針を打っていく
  残りは10秒ほど。
  その時、うつむいているエトーの顔に光
  が差す。
  エトーは、気が付いて窓を見あげる。
  窓からは光が差し込み、美しい空が見え
  る。
  エトー、ハッとしてその窓から時限爆弾
  を思いっきり放り投げる。
  
○列車
  トンネルから抜ける列車。
  美しい風景。青空と大きな平原が広がっ
  ている。その列車の横でドンっと大きく
  爆発する爆弾。
  緊急停止する記者。
  
○トイレ前
ポピー「うおおっ!」
  と、男達と共に倒れこむ。
  車掌、初老、親子は男達をクッションに
  倒れる。
車掌「だ・・・大丈夫ですか・・・?」
子供「うえーん」
男親「う・・・だ、大丈夫か!?」
  と、子供を見る。
  ガチャッと、ドアを開けてエトーが出て
  くる。
エトー「坊や、ごめんね。トイレ使っていい
 よ」
  男親が急いでトイレに子供を連れていく。
  呆然と立つエトー、倒れて気絶している
  ポピー達を見る。そんなエトーを見つめ
  る綺麗な婦人。
エトー「(女性に気が付き)・・・あなたで
 すか?」
  女性ニコリと笑う。
エトー「私は・・・罪を償います・・・」
女性「ええ・・・でも、あなたが今考えてい
 る償いは償いではないでしょう?」
エトー「え・・・?」
女性「大切なものを守るのなら、もっとわか
 りやすくなさい」
エトー「・・・・はい」
  女性は、トイレとは逆側の連結へ手を招
  く。
  エトーは、その女性を通り過ぎて連結へ
  と歩いていった。。。。


終わり


BBS

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