雨に揺れれば(シナリオ20)
とある事情で陽の目を見ることがなくなってしまった作品。僕のサイトに上げときます。
□内容:結婚をまじかにせまった比奈子。だが過去に事故で失った婚約者と子供のことを想い、
 本当に結婚して良いのかと葛藤する。自分は幸せになっていいのだろうか?幸せとはなんだろうか?


□人  物

 三中 比奈子(25)フリーター
 時田 直人(25)比奈子の元婚約者
 三中 香奈枝(50)比奈子の母
 三中 照雄(55)比奈子の父
 西元博隆(29)比奈子の婚約者
 子供(?)?

〜本編〜

○T「幸せとは何だろう?」
比奈子N「幸せとは何だろう?」

○同・比奈子の部屋(回想)
   比奈子(20)がベッドに座っている。
   顔には絆創膏。
   下から聞こえてくる両親の泣き声。
比奈子「てるてるぼうずてるぼうず……」
   と、持っているてるてる坊主を見る。
   てるてる坊主に満面の笑みが描かれて
   いる。
比奈子「明日、天気にしておくれ」

○結婚式場(雨)
   大きな結婚式場が見える。

○同・新婦準備室
   綺麗な内装。鏡と椅子がある。
   鏡に向っている三中比奈子(25)花嫁
   衣裳をまとっている。後ろに三中香奈
   枝(50)が、いる。
   ドアの近くに小さいテーブルが見える。
   何も載っていない。
香奈枝「とっても綺麗よ。比奈子」
比奈子「うん……」
   と、悲しそうな笑顔。
香奈枝「浮かない顔して」
比奈子「……お母さん。あたし、本当に結婚
 していいのかな……」
香奈枝「……いいのよ。いいの」
比奈子「でも……」
香奈枝「……きっと喜んでいるわ」
   と、涙をこらえて、部屋を出て行く。
比奈子「……」
   と、悲しそうに鏡を見つめる。
比奈子「本当に、いいの……?」
   と、手に持ったハンカチを見つめる。
   ハンカチにはメガネをかけた笑顔が描
   かれている。
比奈子「……」

○三中邸・雨(夕)
   三中邸が見える。
   少し雪が積もっている。
   T「5年前」

○三中邸・比奈子の部屋・雨(夕)
   ベッドがあり、横に机が置いてある。
   部屋全体は薄暗く電気はついていない。
   窓からは雨空が見える。
   机の上にフォトフレーム。比奈子と時
   田直人が仲むつまじく写って
   いる。直人(25)はメガネを掛けてい
   る。
   三中比奈子(25)がベッドに半身を起
   こして座っている。顔には絆創膏。
   白いハンカチを広げて、丸い綿を置く。
   部屋をノックする音。
香奈枝の声「入るわよ」
   と、香奈枝が入ってくる。
   手には夕食が載ったお盆。
   香奈枝、机にある手のつけられていな
   い昼食を見る。
香奈枝「……」
   比奈子、てるてる坊主に顔を描き込で
   いる。
   香奈枝、昼食と夕食を取り替える。
   そして、部屋を出る。
比奈子「……」
   と、窓の外を見ている。

○同・比奈子部屋の前
香奈枝「……」
   と、涙を拭うようにして階段を下りる。

○同・リビング・雨(夜)
   テーブルが置いてある。大きな窓。
   昭雄(50)が窓の近くに立つ。テーブ
   ルに腰をかけている香奈枝。
   昭雄がネクタイを脱ぎながら、窓の外
   を見ている。
昭雄「……長雨になりそうだな……」
香奈枝「比奈子、何も食べないの……」
昭雄「……医者も言ってたろう。中絶後は、
 精神的なものもあるって」
香奈枝「ただの中絶じゃないのよっ!」
   昭雄、無言で窓の外を見ている。
香奈枝「あの子が可哀想で……わたし、見て
 いられない」
   と、泣き出す。
昭雄「……不慮の事故だ……」
   香奈枝、顔を覆って泣く。
香奈枝「あの子、全部失ってしまったのよ」
昭雄「……」
香奈枝「婚約者も、お腹の子も……」
   昭雄、肩を震わせる。
   と、泣く昭雄と香奈枝。

○同・比奈子の部屋・雨(夕)
   比奈子、窓を開けててるてる坊主をつ
   ける。
比奈子「……」
   と、窓を閉める。
   風に揺れるてるてる坊主。笑顔が見え
   る。

○月・雨(夜)
   雨雲から、少し月が見える。

○比奈子の部屋(夜)
   ベットの上でうなっている比奈子。
比奈子「うっ……ううっ……」
   苦悶の表情。

○比奈子の夢
   車の中で楽しそうにしている比奈子と
   直人。比奈子のお腹は大きい。
比奈子「ちゃんと、前見て運転してよっ」
直人「あははは」
比奈子「あっ……」
   と、お腹を撫でる。
直人「ん?どした?」
比奈子「動いたっ」
直人「本当か!?触らせて」
比奈子「ここ、ここらへん」
   と、直人の片手を手繰り寄せて、お腹
   に当てる。
直人「んん?」
比奈子「動いてるでしょ?」
直人「ん〜……どこ?」
比奈子「ここだってば」
   直人、比奈子のお腹を少し見る。
直人「あっ、あぁ!動いてる!」
比奈子「ねっ!」
   激しいブレーキ音。
   比奈子と直人、前を見る。
   対向車線からトラックがぶつかってく
   る。

○暗転
   コンコンと音。
   コンコンと音。
子供の声「……お母さん」

○比奈子の部屋(夢明け)
   目を開く。目からは涙がこぼれている。
比奈子「……」
   コンコンと窓を叩く音。
   比奈子、窓を見る。
   てるてる坊主が風に揺れて窓を叩いて
   いる。
比奈子「……」
   と、窓を開ける。
   てるてる坊主のインクが溶けて、涙の
   ように垂れている。
比奈子「……お前が言ったの?お母さんっ
 て」
   風に揺れるてるてる坊主。
比奈子「……」

○比奈子の家(朝)
   比奈子の家が見える。

○同・比奈子の部屋(朝)
   比奈子、てるてる坊主をつけている。
   てるてる坊主が二つ並ぶ。
比奈子「……うん」
   二つのてるてる坊主。一回り大きくて
   メガネをかけたてるてる坊主と、泣い
   ている笑顔のてるてる坊主。
比奈子「また三人だよ。これで、寂しくない
 ね……」
   風に揺れるてるてる坊主。くるくると、
   踊るように揺れる。
   比奈子、少し笑う。
   机の上の比奈子と直人が写るフォトフ
   レーム。

○三中邸(雨)
   三中邸が見える。
   木にセミが止っている。
比奈子「ただいまー」

○同・比奈子の部屋
   比奈子、机に座って何か書いている。
   もう顔には絆創膏は無い。
   ――履歴書。
比奈子「……よし」
   と、背伸びする。
   比奈子、窓の外を見る。
   てるてる坊主が二つ揺れている。
比奈子「あたし、頑張るね」
香奈枝の声「比奈子、ご飯よ」
比奈子「はーいっ」
   と、部屋の電気を消して、ドアに手を
   掛ける。
子供の声「幸せになって」
比奈子「!」
   と、振り向く。
   暗い部屋。開けたドアから漏れる光だ
   けがある。
比奈子「……」
   と、てるてる坊主を見る。
   揺れているてるてる坊主。
比奈子「幸せよ。貴方達がいてくれるから」
   と、部屋を出て行く。
   揺れているてるてる坊主達。

○同・リビング
   テーブルを囲んで食事をしている比奈
   子、香奈枝、照雄。
   風の音が強く聞こえる。
照雄「(窓の外を見て)風が強くなってきた
 な」
香奈枝「比奈子、雨戸ちゃんとしめた?」
比奈子「あっ、今閉めてくる」
香奈枝「食べてからでいいわよ」
比奈子「うん」
照雄「……なぁ、比奈子」
比奈子「なに?」
照雄「直人君のお母さんから電話があってな
 ……」
比奈子「……うん」
香奈枝「お父さんっ」
照雄「……良い話があったら結婚してほしい
 と、言っていたよ」
   比奈子、手を止める。
照雄「お前のことを思って言ってくれたこと
 だ。ちゃんと胸にしまって……」
比奈子「半年だよ……」
香奈枝「比奈子……」
比奈子「まだ、たったの半年しか経ってない
 ンだよっ!」
照雄「分かってる。だから直ぐということじ
 ゃなくて……」
比奈子「まだ、半年しか……そんなの無いよ。
 絶対無い……無いよっ!!!」
   と、部屋を出て行く。
香奈枝の声「比奈っ」

○同・比奈子の部屋(夜)
   比奈子、勢いよく入ってくる。
   電気もつけず、その場に座り込む。
   比奈子、声を殺して泣く。
子供の声「幸せになって……お母さん」
   比奈子、顔を上げる。
比奈子「……!」
   と、走って窓を開ける。
   メガネのてるてる坊主が揺れている。
   もう一つのてるてる坊主は消えている。
比奈子「……どこにいったのっ」
   と、下の庭を覗き込む。
   暗くてよく見えない。
   比奈子、部屋を飛び出す。
   残ったてるてる坊主が揺れている。

○同・裏庭(夜)
   嵐中を、屈んで探している比奈子。
   泥だらけの手。
比奈子「どこっ?どこにいるのっ!?出てき
 てっ!?」
   照雄と香奈枝が、走ってくる。
香奈枝「比奈っ」
照雄「比奈っ!なにしてるっ」
   と、比奈子の肩を掴む。
比奈子「いないのっ!?いなくなっちゃった
 の!?あの子が!」
   と、照雄の手を跳ね除ける。
照雄「……?」
   比奈子、はいつくばって探している。
比奈子「お願いっ!出てきて!お願い!」
香奈枝「……比奈子……」
比奈子「あっ!」
   と、道に転がる白いものに気がつく。
   比奈子、それを走って掴む。
   見てみると、泥だらけの丸い綿。
比奈子「……う……うわあ〜」
   と、大声で泣く。
   大粒の涙を流しながら、空に顔を上げ
   て泣く。
比奈子「うわぁああああ」
   その場にしゃがみこむ比奈子。
   照雄と香奈枝が走ってくる。
   比奈子の肩を抱く香奈枝。立ち尽くす
   照雄。

○比奈子の部屋(夜)
   嵐に揺れている残ったてるてる坊主。

○(回想明け)新婦準備室
   ドアの近くに小さいテーブルが見える。
   上には何もない。
   比奈子が手に持ったハンカチが見える。
   そこにはメガネをかけたてるてる坊主
   の顔がある。
比奈子「……わたしだけ……幸せになってい
 いの……?違う気がする……」
   と、後ろからパタパタと走る音。
   一瞬、鏡ごしにドアが開いて閉まるの
   が見える。
   比奈子、振り返って
比奈子「だれ?」
   しん……と静まり返る部屋。
比奈子「……」
   ドアをノックする音。
   比奈子、ビクっとする。
比奈子「は、はい……」
   西元博隆(29)が入ってくる。
比奈子「……あぁ、博隆さん」
博隆「失礼するよ」
比奈子「なんだ、博隆さんだったのね」
博隆「ん?なにがだい?」
比奈子「だって……今……」
博隆「……なにかあったのかい?」
比奈子「え……」
博隆、比奈子に近寄る。
博隆「それより、綺麗だよ……比奈」
比奈子「……え、あ。うん……」
博隆「……どうかした?」
比奈子「ううん……なんでもない。ありが
 と」
博隆「……うん、綺麗だ。世界で一番」
比奈子「……言いすぎよ」
博隆「……君を幸せにする。誰よりも」
比奈子「……」
   と、物憂げな表情で、ハンカチを見つ
   める。
比奈子「……博隆さん」
博隆「ん?」
比奈子「色々考えんたの……それで……やっ
 ぱり、あたし……」
   ドアをノックする音。
   式場職員の声「失礼します」
   と、式場職員が入ってくる。
博隆「(振り向いて)あぁ、どうです?」
式場職員「大変、大変申し訳ございませんっ。
 当方の手違いで。予備もお探ししたのです
 が、何故か一枚もなく……大変申し訳あり
 ません」
博隆「あぁ〜……ポケットチーフがないんで
 すか……そうですか……わかりました」
式場職員「大変、大変申し訳ございません。
 この責任はこちらでしっかりと取らせて頂
 きますので、なにとぞご容赦くださいま
 せ」
   と、深々と頭を下げる。
博隆「いえいえ、仕方ないですよ」
式場職員「大変、失礼いたしました」
   と、部屋を出る。
博隆「……う〜ん……」
比奈子「ポケットチーフ、無いの?」
博隆「うん。まぁ、ちょっとここが寂しいけ
 ど。いいだろ」
   と、何も入っていない胸ポケットを軽
   く叩く。
比奈子「……」
博隆「それじゃあ、先に行ってるよ」
   と、部屋を出て行こうとする。
比奈子「博隆さんっ!」
   博隆、止まる。
博隆「なんだい?」
比奈子「……」
   博隆の優しい笑顔。
比奈子「……ううん。なんでもない」
博隆「緊張しすぎるなよっ」
   と、笑顔。
   博隆、近くの小さいテーブルに気がつ
   く。
   テーブルの上には白いハンカチがたた
   んで置いてある。
博隆「なんだ、ポケットチーフあるじゃない
 か」
   と、テーブルの上にある白いハンカチ
   を手に取る。
博隆「それじゃあ、待ってる」
   と、部屋を出る。
比奈子「……」
   窓から見える雨の景色。。。

○教会
   教会の十字架が見える。
牧師の声「その健やかなるときも、病めると
 きも……」

○同・教会内
   列席に多くの人がいる。その中に香奈
   枝と照雄の姿もある。
   牧師の前に立つ比奈子と博隆。
牧師「真心を尽くすことを誓いますか?」
博隆「誓います」
比奈子「……」
   と、うつむいている。
牧師「……誓いますか?」
比奈子「……」
博隆「……比奈子?」
   うつむいている比奈子。
   ざわつく列席者達。
香奈枝「比奈子……」
照雄「……」
牧師「ゴホンっ。誓いますか?」
比奈子「……」
   と、博隆を見る。
比奈子「博隆さん。あたしっ……」
   と、比奈子驚いた顔。
   不思議そうな博隆――その胸には白い
   ハンカチが収まっている。
比奈子「(目を開く)……」
   胸のハンカチから、インクが垂れて涙
   のようになっている笑顔のてるてる坊
   主の顔が覗いている。

○フラッシュ
   博隆、近くの小さいテーブルに気がつ
   く。
博隆「なんだ、ポケットチーフあるじゃない
 か」
   と、テーブルの上にある白いハンカチ   を手に取る。

○教会内
比奈子「あ……」
子供の声「幸せになって……お母さん……」
   比奈子、列席を見る。
   一同不思議そうに比奈子を見る。
   比奈子、列席を見渡す。
   教会のドアが少し開く。
   子供がドアから出て行く。
   比奈子、目を大きくする。
   そのドアに先に、直人らしき人影。
子供の声「幸せにね……」
   と、扉が閉まる。
比奈子「……」
   と、ドアを見つめる。
博隆「比奈子?どうかした?比奈子」
   比奈子、我に帰る。
比奈子「……ご、ごめんなさい……大丈夫…
 …」
博隆「……」
牧師「……大丈夫ですか?」
比奈子「……はい」
   と、正面に向き直る。
比奈子N「幸せとはなんだろう……。この時、
 私はその答えの一つに気付いた……」
牧師「では、新婦比奈子。真心を尽くすこと
 を誓いますか?」
   比奈子、横目で博隆の胸のハンカチを
   見る。
   涙を流して笑っているてるてる坊主。
比奈子N「それは、人に幸せになってほしい
 と思われること……私にはそう思ってくれ
 る人が沢山いる……」
比奈子「はい……」
比奈子N「だから、私は幸せになる……愛す
 る人たちの想いと共に……」
比奈子「誓います」

○教会
   教会が見える。青空が広がっている。
   それを見つめる手を繋いだ父親と子供
   の後姿。
   鐘が鳴る。

終わり


終わり




BBS

ご感想はこちらまで


戻る
当サイトに掲載されている作品を漫画化および、映像化、舞台化その他仕事依頼などは、
下記のアドレスまでご連絡下さい。
メールアドレス paddle_life○hotmail.com
(注・@マークが抜いてありますので、ご連絡の際はお手数ですが@マークを○の部分に挿入の上ご送信ください)


Topへ