雨のせい(シナリオ29)
 ちょっと遊びで描いた作品。手法も基本的に自分が好きなしっとり系。個人的はいい作品だと思ってます。
□内容:水元は、とある傘屋に出会った。その傘屋は傘を売るのではなく、傘を貸すという店だった。

イラスト hidesato



人物

 

 水元 豊(31)営業職

 美緋色(みひろ)(27)雨傘屋の店主

 水元 浩美(27)水元の妻

 同僚(31)水元の同僚

 

その他


○小道

水元N「雨は大嫌いだ」

古い建物が並ぶ小道。

そこで携帯で通話中の水元。

水元「はい……そうですか……では、また何

かの機会には是非……」

と、電話を切る。

水元「(ため息をついて)また、駄目か」

雨がポツポツと降ってくる。

水元、空を見上げる。

水元、鞄を探る。

鞄から女性モノの折り畳み傘が出て

くる。

水元、悲しげに見つめる。

それを鞄にしまい、まわりを見る。

近くにトタン屋根のついた古い商店

に気付く。

 

○古い商店前

トタン屋根の下で雨宿りをする水元。

水元「(悲しげに)雨か……」

と、空を見上げる。

水元、ふと商店を見る。

古い商店は昔の駄菓子屋のような造

り。窓ガラスのついた戸から中を見

る水元。

中には傘が沢山陳列されている。傘

のお店のようだ。

水元、不思議そうな顔。

店の玄関の横にある看板を見る水元。

そこには「雨傘屋」

水元は、店の中を再度見て

水元「……」

 

○同・店内

に、入ってくる水元。店を見渡す。

綺麗に陳列された傘。奥にレジが置

いてある。

静かな店。雨の音だけが聞こえる。

水元「……あ、あの〜」

()緋色(ひろ)の声「はい」

水元、奥を見る。

メガネを掛け、本を持った()緋色(ひろ)

レジの奥に座っている。

水元、()緋色(ひろ)を見て驚きの表情。

手から鞄を落とす。

()緋色(ひろ)「(笑顔で)何か?」

水元「(困惑)あっ、あぁっ、い、いや……

あの、もっと適当な傘、ないかな?そう

だ……あの、ビニール傘みたいなのっ」

()緋色(ひろ)「ここは、傘をお貸ししてるンです。

また返しに来て下されば、それで」

水元、その顔を見て息を呑む。

水元「(我に返り)あっ、そ、そうなのか…

…」

と、周りを見て一本の傘を取る。

水元「レ、レンタル料とか期間とかっ」

()緋色(ひろ)、笑顔で首を振る。

()緋色(ひろ)「この雨が止む頃までには」

水元、驚きの表情で()緋色(ひろ)を見つめ

ている。

水元「……」

()緋色(ひろ)「そちらの傘でよろしいですか?」

水元「(気付いて)あっ、あぁ。うんっ。じ

ゃ、じゃあ借りていきますっ!」

と、足早に店を出て行く。

()緋色(ひろ)、少し悲しげな顔をしてクスっ

と笑う。

 

○小道(雨)

傘を持ったまま歩く水元。

水元「(考え込んでいる)……あっ」

と、傘を開く。

傘を見上げる。

水元「……」

と、考え込み歩き出す。

 

○四菱商事・外観(雨)

ビルが見える。

 

○同・廊下(雨)

窓がある。その下に灰皿がおいてあ

る。

水元、写真を見ている。

同僚が来る。

同僚「部長に随分しぼられてたな」

水元「……」

同僚「最近、営業成績が落ちてるな」

と、水元の写真を覗き込む。

同僚「……そうか、もうそろそろ一年か」

水元「……ああ」

同僚「いい人だったな。奥さん」

水元「(悲しげに)……」

同僚「ま、部長のことは気にするな。飲みに

ならいつでも誘えよな」

と、水元の肩を叩く。

水元、悲しげに写真を見つめる。

その写真には水元と女性が並んで写

っている。女性はメガネを掛けてい

ないが()緋色(ひろ)そっくりな人。

窓の外を見る水元。

外は雨が降りしきっている。

 

○雨傘屋・店内(大雨)

レジ横にある椅子に水元が座ってい

る。

()緋色(ひろ)がコーヒーを水元に差し出す。

水元「(気付いて)あ、ありがとう……」

()緋色(ひろ)「大雨ですからね」

と、外を見る。

外は大雨。

そんな()緋色(ひろ)の横顔に見とれている

水元。

()緋色(ひろ)が水元に振り返る。

水元「(焦って)あっ、うっ、うん」

()緋色(ひろ)、クスリと笑ってレジに座り、

本を読み出す。

水元「……」

雨の音が店に響く。

水元「あ、あの……なっ、なに読んでるの?

いつも?」

()緋色(ひろ)、本の表紙を見せる。

そこに「雨の性」と題名がある。

水元「さが?」

()緋色(ひろ)「うん。雨の性」

水元、()緋色(ひろ)の顔を見つめる。

水元「あっ、えっと……酸性とかアルカリ性

とかの?」

()緋色(ひろ)、首を振る。

そして、本を開き

()緋色(ひろ)「私は雨。私は冷たい冷たい雨。私は

会いたい。あの人に。だから降って会い

に行く。でも、つらい。とてもとても辛

い。どうしても私は冷たくて、どうしよ

うもなくあの人を冷たくしてしまう。好

きなのに。温めたい。私は雨、悲しい悲

しい冷たい雨……」

と、悲しげに本を見つめる。

水元、呆然と()緋色(ひろ)を見つめる。

()緋色(ひろ)、笑顔に戻り

()緋色(ひろ)「こんな詩が沢山載っているの。素敵

でしょ?」

水元「ああ……なにか、悲しい詩だね」

()緋色(ひろ)「……雨は悲しいのね」

と、悲しげに外を見つめる。

水元「……」

 

○同・店前

雨が止んでいる。

 

○同・店内

水元が玄関に立っている。

水元「随分、雨宿りしちゃったな」

()緋色(ひろ)「止んじゃいましたね」

水元「今日は借りていかなくて済みそうだ

ね」

()緋色(ひろ)「まだ一つ貸し出したままですよ」

水元「え?」

()緋色(ひろ)、笑顔で水元を見ている。

水元「何かまだ借りてたかな?」

()緋色(ひろ)「待ってます」

水元、不思議そうな顔。

水元「う、うん。じゃあ、また」

と、玄関を出て行く。

()緋色(ひろ)、悲しげな表情で水元の影を見

る。

 

○水元の家・リビング(朝)

TVがある。

TVからは天気予報。

TV「秋の長雨も終わり……」

水元、私服でカレンダーを見つめて

いる。

カレンダーの1020日に印が付けら

れている。

「浩美、命日」とある。

水元「……」

 

○(回想)水元の家・玄関

傘立てがある。

スーツ姿の水元が玄関にいる。それ

を見送る浩美。

水元、ドアを開ける。

外は雨。

水元「しまったな……傘、会社に置いてきち

まった。お前の貸してくれよ」

と、傘立てに掛けられている女性モ

ノの折畳み傘を取る。

浩美「え〜、それ大事なのだよ」

水元「ああ、まだ持ってたかのか?これ。俺

がプレゼントしたやつ」

浩美「だってあなたが言ったでしょ」

水元「ん?あぁ、駄目だ。もう行かないと」

と、ドアを出て行く。

浩美「あっ、いってらっしゃいっ」

と、笑顔で手を振る。

 

○(回想終わり)水元の家・リビング

水元、カレンダーを見つめて

水元「あれが、最後の姿だったな……」

と、悲しげな表情。

水元「結局返せなかったな……傘……」

フラッシュ

()緋色(ひろ)「まだ一つ貸し出したままですよ」

水元、ハッとする。

フラッシュ

()緋色(ひろ)「待ってます」

水元、考え込み走り出す。

 

○雨傘屋前

店は暗い。

水元が走ってくる。手には女性モノ

の折畳み傘。

水元、戸を開ける。

 

○同・店内

暗い店内に水元が入る。。

水元「え……?」

何も無い店内。驚く水元。

水元「浩美っ!」

と、奥へと走る。

()緋色(ひろ)の声「雨……止んじゃったね」

水元、振り返る。

()緋色(ひろ)がいる。

水元「浩美っ!浩美なんだろ!?」

()緋色(ひろ)「バレちゃいけないのになぁ……」

と、メガネを取る。

水元「お前……どうして……」

浩美「傘を……取りに来たの」

水元「あっ、あぁ。持ってる持ってきた」

と、傘を差し出す。

浩美、ニコリと笑って受け取る。

浩美「よかった。やっと戻ってきた」

と、傘を抱きしめる。

水元「お前……傘の為に戻ってきたのか?」

浩美「だってあなた言ったじゃない」

水元「え?」

浩美「あたしは覚えてるよ。あなたが恥ずか

しそうにずっと……ずっと持ってろって

言ったの」

水元、ハッとする。

水元「浩美……」

と、浩美に近寄る。

浩美「でも、もう戻らなくちゃ」

水元「え?」

浩美「私、雨なの。雨になって帰ってきたの。

でも、もう止んじゃったから……」

水元「どうしてもっと早く言わなかったん

だ!俺は……俺は……」

浩美「ごめんね……私だってわかって、また

あなたに寂しい想いをしてほしくなかっ

たの……でも、やっぱり駄目ね」

と、薄れていく浩美。

水元「浩美!?」

浩美「雨は降ったら止まないと。それが雨だ

から。でも降るとやっぱりあなたの心冷

たくさせちゃったね……。雨の性だね…

…」

水元「待ってくれ!」

と、浩美に手を伸ばす。

浩美「会えてよかった」

と、笑顔を残し消えていく。

水元「浩美っ!」

静まり返る店内。

水元、その場に伏せて肩を震わせる。

水元「浩美……」

いつの間にかに外は夜になっている。

 

○空(夜)

雲ひとつ無い空に月が浮かぶ。

 

○駅・前(雨)

駅の構内からサラリーマン達が出て

い来る。

スーツ姿の水元も出てい来る。

空を見上げる水元。

雨が降っている。

近くにいるサラリーマンが空を見て。

サラリーマン「なんだよ。降ってのかよ

っ!」

と、鞄をかざして小走りする。

水元、鞄から男物の折り畳み傘を出

して開く。

水元、また空を見上げ、笑顔。

そして、歩き出す。

 

                終わり




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